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リサコラム
連載940回
      本日のオードブル

『Live in A Dream』

第2話

「素数の顔」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つデザイナー。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。
甘いものは少々苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家は
ロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、
F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




風も凪いで静かな水面を

小さなクルーザーが

夜のハーバーからふわりふわりと

海に出てきた。

黄色い光が漏れて...

さて、シャーロックなら

これをどう読み解くかな?



 



第2話「素数の顔」



 「夫が朝、いつも通り朝、家を出て、車で会社へ行ったきり、

戻ってこないのです。電話にもでないし、会社は土曜でもう誰

も電話に出ません。きっと何かの事件に巻き込まれたのだと思

います」と電話の向こうのよほど緊迫した様子はその妻の声で

わかった。電話に出た担当の警察官は「何か変わったことは

ありませんでしたか?少しでもいいので、手がかりになるよう

なことが、」と、落ち着き払って彼女に尋ねた。


            


 「自慢ではありませんが、夫は黙って帰りが遅くなるような

ことは10年間、一度もなかったのです。ほんとに、ただの1

も。判で押したような生活習慣を守る真面目な性格の人ですか

ら、きっと何かあったに違いありません、どうか、探してくだ

さい」「わかりました。しかし、脅迫の電話だのがかかってき

たわけでなければ、まだ、数時間でしょうから、あまりご心配

なさらず」警官は仕方なく、「ご主人に変わったところはあり

ませんでしたか?」となだめるように聞いた。


            


 「私もこの数時間、散々考えました。でも、何一つ見当がつか

ないんです。ごく普通に、朝5時に起きて、犬の散歩に行き、

帰って、シャワーを浴びて食事をとって、会社に出かけました。

いつも通りの同じ時刻、7時51分にです。」「51分?その1

分というはどういう意味があるでしょうか?マイカー通勤でいら

っしゃいますよね」「ええ、非常に几帳面な人なので、時間以外

にもすべてのことに彼なりのルールがあります。ですから、たと

えその日の朝、天変地異が起きようとも7時51分にドアノブを

引いたでしょう。51分というのは、50より、51が好きなの

です。カバンの中には常に3枚のハンカチ入れています。2枚は

予備です。それは2より3が好きだからです」


            


 「はは、すばらしく几帳面でいらっしゃるのですね」「ええ、

靴は毎晩帰ってきたら靴紐を外してから磨き、夕食後には明日の

シャツにもハンカチにも自分でアイロンかけるような人ですか

ら、私の手を煩わすこともほとんどありません。でも、妙に数字

にこだわる点だけは、私もあまり納得はしていませんが、それは

好みの問題のようですから…」
「それでは、その朝も同じように

3枚のハンカチを持って、7時51分に出られたということです

ね」「はい。10年間変わりません。私も毎回チェックしてはい

ませんが、変ることはありません。そして、毎晩、必ず7時51

分にドアを押して帰ってきます」警察官は、「いや、ご主人様は

稀に見る几帳面な方ですね。素晴らしいとしか言いようがありま

せんね。人格者でいらっしゃるのでしょう、きっと、」


            


 「あの、お言葉ですが、今は、主人の性格のご相談ではなく、

主人を探していただきたくて
電話をしているんです。それとも、

これが事件じゃないと
そう思いなんでしょうか?」「そんなこと

はありませんが、ご主人様があまりに習慣に忠実な方でいらっし

ゃるようですから、おそらくは、何かの変化でもあれば、手がか

りになると申し上げているのです」「とにかく何もないのです。

今朝に限っても、昨日も、1年前も、10年前も同じなのですか

ら」「しかし、私たちが動けるとしたら、どこかに小さな手がか

りを見つけることなのです。ですから、じっくり思い出していた

だくしか他に方法はないのです。そうでなければ探しようがない

のです。五里霧中のまま探検するわけにはいかないのです」女性

はもうそれに対して反論しようと思わなかったらしく、黙ったま

まだった。


            


 警察官は穏やかな口調で続けた。「世の中に失踪中の人はかな

りの数います。ですが、手がかりがなれければ捜査は打ち切らざ

るをえません。それ以降はご自分で探していただくしかないので

す。私どもでは何かの事件が起きたとか、手がかりがつかめない

限り、動きようがないのです」


            


 電話口の向こうで、女性はひとこと、「わかりました」と言っ

た。「何か思い出されたことがあれば、また、お電話いただけれ

ば…」女性は、はっとしたように、「実は、主人にはちょっと変

わった趣味がありまして、素数が好きなんです。何事も数字にあ

てはめる癖がありまして、それで、7時51分は7も51も素数

なのです。ハンカチの3枚も、2は偶数ですが、3は素数なの

で、3枚になるのです。」


            


 「素数ですか?」警官が耳慣れない言葉を聞き返すと女性は、

「そうです。素数です。1とその数自身でしか割り切れない自然

数というらしいです」「なるほどですね~」「ええ、それで、

12ヶ月の中で素数は3月、5月、7月、そして今月の11月の

4
つしかありません。ですから、普段はとても物静かで対して冗

談も言わないような人ですが、素数の月になると普段よりほん

のちょっと快活にはなるようです。…それに、今日11月11日

はちょっと特別な日ではあるには、あるのですが…でも、手がか

りがあるとしたら、それだけです。他には何もありません。素数

の日だということなのです。もう少し待ってみます」そう言うと

女性は大きなため息をついてから電話を切った。


            


 「それで、どう思う?」警官はイヤホンで聞いていた隣の刑事

に尋ねた。「まさしく上出来のミステリー小説だね。手がかりは

まるでなし。夫婦関係に問題は無し。男は習慣を変えたことの

ない非常に几帳面な男。女性は主婦で、家の中はきっと常に整っ

ている。そんないつも通りの日に事件が起きた!どこかで男性の

死体が上がればね…それでだ、私の個人的な意見だが、そこまで

几帳面で真面目な非の打ち所がない男には、もう一つ別の人格が

あることが多い、と思っている。ジキルとハイドのようなね。つ

まり、彼のなかに2つの人格があり、それを使い分けていたが、

その必要がなくなったか、できなくなったかの理由で、失踪した

と考えると辻褄が合うんじゃないかな?彼は素数によってすべて

を決めるとかいう奇妙な習慣を妻の前で10年間続けることで、

自分を几帳面で真面目な人間だと彼女に思わせてきた。おそらく、

彼は別の女性といるか、あるいは、もうひとつの職業に変った

かのどちらかだろう。別名でね。そうなるともう探しようがない

。彼が本来、素数が好きで、その日に何かの行動を起こそうと決

めるのではあれば、決行の日が素数の日という自分自身に対する

言い訳にも決断にもなるからね」刑事は自信たっぷりに言い放っ

た。


            


 「なるほど、2つの人格を合わせ持つね」「そういうケースは

過去にもあった。奥さんが知らないうちに、別の仕事で一財産を

稼いでいたとか、そして、ある日を境に別人格に転換するという、

まあ、ミステリー小説の筋書きにありそうだが…」すると、警官は

刑事の話を遮って、「これはどうかな?シャーロック・ホームズ

の『唇のねじれた男』事件に出てくる話だが、事件の中で、男は

長年、銀行員と称して妻を欺き、浮浪者をやっていたという話だ。

ある筋によれば、浮浪者と偽る職業は儲かるらしい。ホームレスは

3日やれば止められなくなるって言うけれど、人によっては1日千

ドルも稼ぐやからもいるらしいから。そうすれば、年間36万5千

ドルだから、まぁそこそのクルーザーでも買って、その中で寝泊り

もできるだろうしね。彼のような切れる人間なら準備万端整えてい

たはずだから、今頃、クルーザーの甲板で、デッキチエアに寝っ転

がって、シャンパン片手に、第2の人生に乾杯しているのかもしれ

ないね。ああ~、いいもんだな~、クルーザーに、ヨットに…浮浪

者職業をやってみたいもんだよ」警察官は刑事の横顔に、ため息混

じりに言った。「ああ、いいな~実にいいな」


            


 その時、電話が鳴った。例の女性だった。

「あの、先ほど、主人から連絡がありました!実は、サプライズ

をしようと仕組んでいたそうなのです。

11月11日の私たちの11回目の結婚記念日に合わせて、

それで、今、そこに向かっているんです」警察官は驚いて、

「向かっているとは、どこへ?」と尋ねた。


            


 「ヨットハーバーです。私になんと小さなクルーザーボートを

プレゼントしてくれるそうなんです!それで、今、タクシーの中

です。カギは素数でした」「素数?」「ええ、11回目の結婚記

念日を11月11日の11時11分に船で乾杯したいそうです。

ご助言ありがとうございました。」「なるほど、11時11分に、

クルーザーボートですか、それはそれは、おめでとうござい…」

警官が祝辞を述べ終わる前に、女性は感極まってか、もうどうでも

よくなったのか、電話を切った。


            


 警官と刑事の間には、大きな空白の時が流れた。「まあ、半分

は当たっていたな!」と刑事が言うと、警官は、「ああ」とだけ

言った




  



上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1

 20年くらい前に流行った

強迫神経症を持つ名探偵モンクという

アメリカのコメディドラマがありました。

面白かったです。そして懐かしいです。

ミステリーが読みたくなる秋、

早く帰って、読もう!っと。



p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
「もの、こと、ほん」は下の写真から、2024年11月号です。



           


p
.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

    の英語版です。

    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”

    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:

    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に

    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに

    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。

    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 







































































シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

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