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リサコラム
連載941回
      本日のオードブル

『Live in A Dream』

第3話

「満月の街で」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つデザイナー。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。
甘いものは少々苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家は
ロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、
F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




城壁の町

石畳、古い石造りの建物

満月の夜

やがて吹雪に

さて、ミステリー小説の

舞台は整いました。


 



第3話「満月のバラ」



 コツ、コツ、コツ、月夜の晩、静まり返った夜の田舎町の石畳に、

一定の間隔でメロディを刻む男がいた。左右の建物には明かりはほと

んどついていない。ただ屋上にあるちいさな灯りだけがぽっと、灯台

のように建物の輪郭を示しているのみだった。だが、それも切れかか

っているようで、光っては消え、光っては消えを繰り返し、蛍が飛ん

でいるように見えた。


            


 この城壁の町は崖に沿ってぐるりと建物が取り囲み、その間を狭い

石畳の道が螺旋上に丘の上まで続いている。丘の上にはかつて城が築

かれていたようだが、今はその跡しかない。


            


 男の耳に遠く「ボウ~」という汽船のような音が届いた。真っ暗な

道で唯一、右手の先には海が広がっていると警告を鳴らしているのか

のようだった。すぐに初冬の寒さは石畳から男のブーツを通して足先

にまで侵入してきた。そして、ほどなくして、冷たいものが額に落ち

てきた。「ああ、雪だ。満月の夜に雪が降るのかということは、間

もなく、真っ暗になるということだな」しかし、男は歩調を変えよう

とはしなかった。白い息を吐いてゆるやかな坂道を同じペースでゆっ

くりと歩いていく。


            


 どのくらい歩いただろうか、曲がり角のあたりから、かさっ、

かさっ、と、最初は風音かと思われた音がはっきりとカタ、カタン、

カタンという音となって自分の方に向かってくる。そして目の前にや

って来てようやく人間の足音だったと気づくと、男はぎょっとした。

それは杖をついた老人だった。腰はほぼ、垂直に曲がり、しかし、

男に気づくと、立ち止まり、曲がった腰を目いっぱいそらせてみせた。


            


「こんな夜の時分にどこへ行きなさる?」まるで、古いミステリ

ー小説に登場するような人物が、それにふさわしいようなセリフを吐

いた。「ああ、いえ、ただ、ちょっと散歩しているだけです」男が

そう答えると、老人は「この辺りを真夜中に歩く地元の人間なんかお

りませんからな。それに、今日は満月の晩。よからぬものがやってき

て、人間を連れ去るとか言うから、早く戻った方がよい」老人がそう

言うと、月明かりに照らされた瞳をきらりと輝かせた。老人はさらに

男に近づくと、射るような鋭い視線を向け、男の頭のてっぺんから

つま先までを舐めるように見た。すっと男の背筋に冷たいものが走っ

た。しかし、身を守ろうにも、逃げようにも、まるで金縛りにあった

かのように足は動かなかった。


            


 男はやっと震えを押さえながら、「わかりました。ありがとうござ

います」と言った。それを聞いて老人は無言でうなずき、また、

カタ、カタン、カタンと音を響かせて男の横をゆっくりと通り過ぎ

た。そして十数歩ほど歩き去った後、懐から何か紙包みのようなも

のを落としたような小さな音が石畳の上に残った。男性は小さく、

「あっ」と言ったが、近寄って拾い上げる勇気は持ち合わせていな

かった。そして老人の足音が聞こえなくなると、やっと恐る恐る近

づいてみた。


            


 「これは一体?」男がその細長い紙包みを拾い上げたとき、「それ

を持って行きなさい」と、先程とは比べ物にならない位、力強い声

が暗闇に響いた。しかし、老人の姿は暗闇の中で見えなかった。男

は驚き、立ちすくんだままでいたが、やっとその紙に包まれたもの

を月明かりに照らして見た。「バラか?」それは一輪の真紅のバラ

だった。


            


 男は手にバラを持ったまま、五里霧中だった。ただ、海から吹く風

だけはひゅうひゅうと不気味な音を立てて男のコートをゆらし続け、

無造作に持った男の手のバラの花びらを2、3枚、舞い散らせた。

「何で、バラを?」男は何がなんだかわからなかった。「バラを持っ

て歩けば、妖怪が近づかないということか?そんなバカな!」それで

も男は老人に言われた通り、バラをコートの中に隠すようにして歩き

続けた。


            


 そのうちに、海風はますます強く、雪はそのために横なぐりに降

り始めた。男は花びらを散らさないように、ただそれだけ集中して

歩き続けた。


            


 さらに20分ほど歩き続けた後、左手にぽっと灯りが灯る建物が

見えた。そこは小さな居酒屋か食堂のように思えた。「こんな場所

にこんな時間に開いている店があるのか?」男は疑心暗鬼のまま、

足音を立てないようにゆっくりと店に近づいてみた。


            


 店には看板もないが、中は煌々として明るい。男はバラを懐に持っ

たまま、窓から中を覗き見た。客はいないようだが、バーカウンター

の向こうで、こちらに背を向けた男性がひとりグラスを磨いているの

が見えた。あとどのくらい行けば頂上に達するのかわからないが、

とりあえず、店に入ってみようと男は思った。「いや、今さら…ここ

まで来て、何のために?」通り過ぎようか、どうしようか、帰る場所

を失った男の頭の中には様々なことが去来した。その間にも湿った雪

は容赦なく降り続け、冷え切った足はほぼ無感覚になっていた。


             


 男が死に場所として選んだのはこの城壁の町の頂上だった。

しかし、そこに辿りつく前に男はもう寒さと疲れで足が前に進まなか

った。みぞれのような雪は男のほほにもコートにも容赦なく打ち付け

ていたが、それでも男はバラをしっかりとコートの中に包み込んだま

まで、じっと店の前に立ったままだった。それから10分ほど経った

とき、店のドアがギイと音を立てて開いた。


            


 「いらっしゃい」中から、長身のバーテンダーらしきスタッフが

出て来た。男は「ああ、」と言ったきりで言葉に詰まっていると、

「お待たせいたしました。満月の夜中だけに開くものですから」と

言いながら、中に入るように手招きした。そしてバーテンダーは、

暖炉の前のソファの席をすすめると、すぐに男が右手をコートの中

に入れていることに気づいた。「ああ、スタッフ募集の面接に来ら

れた方ですね」と言いながら、男に向かってコートの中のものを出

すように促した。男はわけがわからずバラを取り出すと、まだ数枚

の花びらをまだ残していた。


            


 その時、男は、そのバーテンダーの瞳の輝きにはっとした。それ

は腰の曲がったあの老人の目だった。男は腰を抜かすくらい驚き、

どんと椅子から床に転げ落ちた。

 「う~っ」男はうめき声を上げた。そして、その自分の声で目

が覚めた。


            


 「ああ、夢かぁ…」転げ落ちたソファの前のテーブルには深紅の

バラが1輪あった。すぐに、同じ屋根の下に住む2世帯、10人が

それぞれに、叫び、笑い、怒りを爆発させていることに気づいた。

その内の6人ほどは自分の周りを走り回っていた。


 「あのまま、もし、目覚めなかったら…」男は傍らに落ちたミス

テリー小説を拾い上げたが、夢の続きにはもちろん、もう、戻れな

かった



  



上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1

 ミステリー小説と言えば、シャーロック・ホームズで

私は青春時代を過ごしました。晩秋の夜、怖い思いを

しながら全巻をほぼ1月足らずで一気読みした思い出が

懐かしいです。



p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
「もの、こと、ほん」は下の写真から、2024年11月号です。



           


p
.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

    の英語版です。

    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”

    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:

    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に

    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに

    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。

    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 







































































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-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
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