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リサコラム
連載942回
      本日のオードブル

『Live in A Dream』

第4話

「カフカの翼」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つデザイナー。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。
甘いものは少々苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家は
ロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、
F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




秋の夕暮れは

物悲しくも、ロマンティック

ブルーな気分とバラ色の気分が交錯する

ふたつ時間だから




 



第4話「カフカの翼」



 男はコートの襟を立てて、公園の中を通る並木道をひとり歩い

た。サク、サク、サク、シリアルの上を歩いたらきっとこんな音

がするだろうかと彼は思った。木漏れ日の下、彼の全身をオレン

ジ色の暖かな光が包み込む。これが黄金色の世界なのか、彼は

そう思った。


            


 どこかで栗を焼くような甘い香りが漂ってくる。そうか、秋祭り

をやっているのか。晩秋の祭りはいい。不安に駆られる人間をひと

時、センチメンタルな気分から救ってくれる。そして、ひたひたと

忍び寄って来るクリスマスの不安をひととき忘れさせてくれる。

彼はクリスマスが1年のうちで1番嫌いだった。その忌まわしい日

の来る前にやり忘れたことはなかったかな?そう思うとゾクッとし

た。何もない、もう、何も、彼は、そう思いながら、サク、サク、

サクと、小気味よい音に耳を澄ませながら、夕暮れ前の午後の小径

を歩いた。


            


 見えないけれど、彼の近くで笑い声がした。そして弦楽器を演奏

する音も聞こえてきた。「これで、いいのだろうか?」彼はそう

つぶやきながら、自分の住むアパートと彼女の家の間に横たわる

大きな公園の小径を歩き続けた。


            


 彼には婚約相手がいた。年齢は自分よりも3つ若く、善良な両親

の家庭に育った善良な女性だった。彼は1年前、「クリスマスの前

には結婚しよう」と彼女に言った。その時、彼女はそこら中の幸せ

を全部奪ったかのようにほほ笑んだ。その笑顔は輝くばかりで、

健やかに美しかった。


            


 それから、2カ月と経たない内に、彼女はウェディングドレスの

話をし始めた。「純白のドレスがいいわ。ハイネックの。オードリ

ー・ヘプバーンが最初の結婚の時に着たあんなデザインのドレスが

ずっと夢だったの。それに、母も大賛成だって。ね、いいでしょ?」

彼はにっこり笑って、「それはいいな」と言った。「でしょ?それ

でね、母がすぐに仕立屋さんを呼んで、注文したの。首のところに

はチュールレースをたっぷりあしらって、バラで刺繍したモチーフ

が膝から裾に向かって散りばめられてるのよ。でも、裾があんまり

広がっちゃうと平凡に見えるから、その加減が難しいところよ!」

彼女は、空を見上げてにっこり笑った。「きっと誰より美しいだろ

うね」そして彼は、「結婚式が楽しみだ」と付け加えた。


             


 それからは二人が週末に会う度、彼女は結婚式に招く招待客の

こと、友人のこと、料理の話をした。オードブルはこれ、ワイン

はこれと、これと、シャンパンタワーはこれくらいに高くと、細か

な内容まで、飽きずに1時間以上もしゃべり続けた。その時の彼女の

表情は清らかで、美しく、背中に翼が生えているかのようだった。

実際に天使を見たことはないが、きっと天使というものはこんな姿形

をしているのではないかと彼は思った。やっと自分の話せる番がや

って来て、彼は、「もう結婚式を待つだけだね」と言った。すると

彼女は、「何か忘れてることはないかしら?って、私、時々とって

も心配になるの。お料理も招待状も全部手配はできているし、何も

忘れているものはないと思うんだけど。でも何か足りないような、

そんな、妙に不安な気分になる時があるの。まあ、案ずるより産む

が易しよね」と言って、彼にまたにっこり笑いかけた。


            


 それから思い出したように、「そうそう、あなたの衣装は私と母

で決めているから安心してね」と付け加えた。「もちろん。君のこ

とだから漏れはないと思ってるよ。それより、ウェディングケーキ

だってお母さんと作るんだってね?」彼女はよくぞ聞いてくれたと

言わんばかりに、「そうそう、ウェディングケーキ、自分で焼くの

が子供の頃から決めてたの。3段か4段かで迷っちゃって。でも倒

れちゃったら、何ともならないから3段にしたの。スポンジは2日

前に全部焼き上げて、そして前の日に生クリームを全体に塗って、

いちごに、チェリーに、桃、それと洋梨のコンポートを飾るのよ。

そして一番下の段にはたっぷりマロングラッセを散りばめてね。

ねっ、素敵でしょう!」彼女の顔は桃のように輝いた。


            


 男はそれには答えず、「ほんとに色々とありがとう。僕は全部、

満足だから。じゃあ、続きの話は今度の土曜日に君の家で」と言っ

た。「わかったわ。それじゃ、夕方の時間にいらっしゃい。土曜

だから、お仕事も引けてるでしょ」「じゃ、土曜日に」そして2

は手を振ってそれぞれの家に向かって帰って行った。


            


 そして、約束の土曜日、彼は自宅から公園の中の森の小径を横

切って彼女の家に向かって歩いていた。結婚を前に、彼は無事、

昇進もし、給料も上がった。模範的なサラリーマンの彼のキャリ

アには何ひとつ、曇りはないように思えた。彼は公園の中を歩き

続け、出口の近くまで来て、ベンチに座った。そしてポケットか

ら手帳と万年筆を取り出した。彼は短い言葉を数行連ねると、

そのページを破り、丁寧に三つに折って胸ポケットに入れた。

そして、公園を抜け、夕陽の街を見渡せるところまでやって来た。


            


 それから、川沿いの石畳の道をしばらく歩き、1軒の家の前まで

やって来ると、その紙切れを玄関のドアの下にすっと滑り込ませ

た。そして彼はそのまま踵を返して、今来た道を戻った。


             


 そして男は手紙を書いた公園のベンチまでやって来ると、ベンチ

の上にばったりと倒れた。「神様、あなたを裏切る前に、僕は3

目の婚約をダメにすることになると思います。きっと彼女は今頃、

落胆しているか、かんかんに怒っているころだと思います。でも、

ほんとうの僕を知ってもらわないと、もう、僕はどこにも行けない

のです。」彼は神に祈りをささげた。


 その頃、彼女は玄関ドアの下に紙きれを見つけて拾い上げ、

読むなり、「フランツ!」と言ったまま、氷ついたように立ちすくん

だ。そこには、こう書かれていた。


            


 「フェリーチェ、将来にむかって歩くことは、僕にはできませ

ん。将来に向かってつまづくこと、これはできます。いちばんうまく

できることは、倒れたままでいることです。」


            


 そして同じ時、公園のベンチで神にさらなる祈りを捧げている男

がいた。「神様、私に翼をください。そうしないと私はずっと倒れ

たままなんです。」男の名をフランツ・カフカと言った




  



上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1

 フェリーチェという婚約者に書いた書いた文章は
実話です。

フランツ・カフカは小説を書きながらも
生涯をサラリーマンとして過ごし、3度の婚約を破棄
します。見た目には何の失敗もない人生なのに、
彼の中ではそうではなかったようです。

ある人はカフカのことを『絶望名人』と呼びます。



p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
「もの、こと、ほん」は下の写真から、2024年11月号です。



           


p
.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

    の英語版です。

    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”

    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:

    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に

    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに

    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。

    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 







































































シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
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