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リサコラム
連載943回
      本日のオードブル

『Live in A Dream』

第5話

「理容師の繰り言」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つデザイナー。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。
甘いものは少々苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家は
ロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、
F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




クリスマスが

近づく街を歩く。

夕暮れになり、明暗が明らかになる。

そして全ての

暗い部分は闇に沈んで見えなくなり、

明るさだけが際立つ。

人の幸不幸もそんなものですか?

ゲーテさん。




 



第5話 「美容師の繰り言」



 流行っている土産物店の店先から『アベマリア』が流れてきた。

クリスマスが近いパリの街にはそこかしこからクリスマスソングが

流れてくる。私はこの曲を聴くと自然に涙が出てくる。

『アベマリア』に限らず、シューベルトの曲で私の気持ちを揺さぶ

られない曲はない。あの、ゲーテの詩に感動したシューベルトが

瞬く間に曲をつけたという『魔王』というおどろおどろしい曲に

さえ私は感動を覚える。


            


 詩を書いたゲーテは実際にある晩、病気の息子を抱き抱えた父親

が、真っ暗な道を医者に連れて行くために馬を走らせていたことを

知って作った詩だと知ったとき、私はゲーテを高潔な人間だと心か

ら尊敬した。シューベルトと同じくらいに。そして青春時代、

『若きウェルテルの悩み』を読んでさらに感銘を受けた。しかし、

その後、その青春時代を悔やむことになった


            


 久しぶりにやって来たパリの街はどこを歩いても気分がいい。どの

カフェにも人がわんさとつるんでいて、至るところに著名人の足跡

が残っている。作家、音楽家、詩人、画家…有名人が足繫く通って

いたカフェなんてのもそこら中にある。パリの街を歩くとまるで自

分がそんな有名人とお近づきになったような気がしてくる。居酒屋

もカフェもお土産屋も夕暮れ直前のこの時間帯がもっとも美しい。

次第に石畳を歩く私の足元から冬が深々と私の体に忍び込んできた

が私は大手を振ってどんどん歩いた。


            


 かつて、詩人たちはパリを題材に憂鬱だのなんだのと物語りはし

たけれど、コンビニなど見たこともないような田舎に生まれ育ち、

20代でやっと都会に逃げ込んだ私にとっては憂鬱こそが贅沢だっ

た。憂鬱と優雅とは紙一重だと私には感じられる。だから、どんな

にパリが陰鬱だの、憂鬱だのと言われても、私には花の都に住みつ

いた贅沢病としか思えなかった。パリに限らず、ヨーロッパの古都

の街並はどこも美しい。音楽の都なら、音楽がちょっとできさえす

れば路上で弾き語りでもしながら生活ができる。仕事を選ばなけれ

ば、どんな仕事でもあるだろう。街を歩けば、どこでも中世の面影

が残る街並みがあり、至るところに教会の鐘の音が響き、そこを若

い男女が、センスある姿の人々が闊歩している。その空気に触れて

いるだけで、充分な幸せを感じられる。それなのに、私はこの言葉

を知ったとき、ゲーテを尊敬していた自分がばかばかしくなってき

た。ゲーテはこう言った。


            


 『私はいつもみんなから、幸運に恵まれた人間だと褒めそやされ

てきた。私は愚痴などこぼしたくないし、自分のこれまでの人生に

ケチをつけるつもりもない。しかし実際には、苦労と仕事以外の何

物でもなかった。75年の生涯で、本当に幸福だった時は、1ヵ月

もなかったと言っていい。石を上に押し上げようと、繰り返し永遠

に転がしているようなものだった。』私は街を歩きながらあたまの

中ではずっとこのセリフが繰り返し鳴っていた。


            


 しかし、ゲーテよ、75年の生涯で、本当に幸福だった時は、1

月もなかったと言っていい。というのはいったいなぜか?『若きウ

ェルテルの悩み』が出版されたとき、ヨーロッパ中の話題をさらっ

たそうじゃないか!当然、みんなからちやほやされたに違いない。

ナポレオンですら、その本を持ってゲーテに会いに行ったのだか

ら。そんな人物がこの私なんかより不幸せなわけがない。もちろ

ん、私も幸せとは何かをいつも考える。それはどんな尺度で測る

べきものなのかと。今日、明日の食べ物に困っていた人が暖かな

ベッドで眠れた日にこの上なく幸せだと感じることと、豪邸に住む

人が高熱を出してベッドから出られない日が続いた時に不幸せを感

じることと、果たしてどちらが幸せで不幸せなのだろうか?と。


            


 なるほど、私が大好きだった魔王というゲーテの詩も、思えば、

ゲーテの恨みが反映されているのだろう。ゲーテは大学に行かせて

もらったのにすぐに結核になり家に戻り、何年か寝たきりで、その

うち、父親の態度が辛辣になっていった。その父親に対する恨み、

つらみが積年になっていたことから、自分の父親と正反対の息子を

思う父の姿を詠んだのだろうという見方ができる。


            


 しかし、私の経験では、親子関係が健全である家庭など10人に

ひとりもいない。私はちょうど、今、ゲーテがあの言葉を書いたと

きと同じ75歳になった。毎日、深夜までやっている理髪店の店主

として、50年間、人の頭をシャンプーしながら、髪の毛にはさみ

を入れながら、ゲーテと同じように父親、母親との確執、人間関係

の不具合をうんざりするほど聞いて来た。ごく普通の庶民から。な

らば、その私の75年の生涯で本当に幸福だった時は、1ヵ月もな

かったと言っていいのか?そうかもしれない。常に石を上に押し上

げようと、繰り返し永遠に転がしているようなものと同じなのだか

ら。しかし、それが人間の営みなのだと私は思う。人は自分の辛さ

をどこかへ吐き出さなくて生きていけない。だから、その受け皿を

担う人間は必ずいる。私のような理容師、美容師、精神科医、医師、

販売員など様々な職業に従事する人々が相互に担っているのだと思

う。


            


 クリスマスの街は不幸せそうな顔をしている人に出会わない。

それはみんなが楽しいと思っているからか?あるいは楽しそうなふり

をしているだけなのだろうか?そうだ、私は今、ゲーテの繰り言を

聞く受け皿になっている。ああ、これを人生最大の幸せと言わずし

て、なんと言おうか
!」




  



上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1


ゲーテはほんとに不幸せだったのかどうか?

これは本人の感じ方次第ではないのか、

それとも、全ての人がそんなものなのか?



p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
「もの、こと、ほん」は下の写真から、2024年11月号です。



           


p
.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

    の英語版です。

    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”

    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:

    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に

    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに

    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。

    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 







































































シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
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