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リサコラム
連載945回
      本日のオードブル

『Live in A Dream』

第7話

「ムーンリバー」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つデザイナー。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。
甘いものは少々苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家は
ロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、
F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




パリの

宝石店のビルに

巨大なリボン、

それは、ショップのオーナーも夢?

それとも…





 



第7話 「ムーンリバー」



 「クリスマスが近づくと、私は無性に『ムーンリバー』を聴き

たくなります。オードリー・ヘプバーン主演の映画『ティファニー

で朝食を』の始まりに流れるあの、印象的なシーンを思い出して、

胸が高鳴るのです。


            


 都会にやって来て、ブランドの店のウインウショッピングをしな

がら、他力本願で裕福な暮らしを夢見る浅はかな若い女性の気持ち

が身にしみるのは、私自身がこの田舎で生まれ育ち、高校卒業後や

って来た憧れの都会で、辛く苦しい日々を耐えながら、何とか生き

ていたあの頃の自分自身に立ち返れるからです。それが、『ムーン

リバー』という曲なのです。口ずさむと、時々、胸の中が涙でい

っぱいになることもあります。


            


 私が18歳で都会に出てきた時、小さい頃から同い年の姉妹のよ

うにして過ごしてきた同郷の同級生と一緒でした。彼女の家も私の

家も小さな町工場のようなものを経営していました。しかし、彼女

も私も家業を継ぐ気にはなれなかったのです。それで2人でタッグ

を組んで、お互いの両親を説得し、高校卒業と同時に家を飛び出し

たのです。もちろん、違う会社で働き始めました。それから3年く

らいはずっと交流をしていました。しかし、そのうち音信が途絶え

、そして月日が経ちました。それでも私は彼女のことはずっと気が

かりでした。きっと彼女の方もそうだと思っていました。


            


 ふたりとも取り立てて、何かの才能があるわけでも、さほど勉強

ができたわけでもありませんでしたから、彼女も私と同じように都

会の片隅のアパートのワンルームの狭いキッチンで、できあいのお

惣菜をチンして食べ、寝起きのふとんで眠り、朝は目覚まし時計で

飛び起きて出勤し、深夜にまた、寝起きのふとんで眠るという生活

を繰り返していただろうと思っていました。そんな生活の日々は、

瞬く間に5、6年、10年と過ぎました。


            


 私はずっと独身でした。というより、結婚のチャンスに恵まれな

かったのです。それでも、できるエリートビジネスウーマンを目指

していると自分では思っていたのです。夢はもちろん、ありまし

た。とても大それたものでした。それはパリのどこかで小さなお店

を持つことでした。どんなお店なのか、具体的なことはまるでな

く、ただ、そんな途方もない夢だけを抱いていました。しかし、

夢も人生もそう、思った通りにいくものではありません。


            


 私が勤めていた会社は廃業することになり、翌日から失業者に

なりました。それでも儚い夢を捨てはいませんでした。無職の日々

が数か月続き、いよいよ、生活に困ってきて、何でもいいから仕事

につかなくては、明日の食べ物もないようなところまで来てしまっ

たとき、ある求人を見つけました。


            


 それは、食事付、住み込みも可の家政婦でした。特技も何もな

い私は、食費も住居費も要らない、さらにお給料ももらえるなら

好都合だと思い、もうどんなことをしてでもそこの家政婦になり

たいと、すぐさま電話をしました。これがもしかしたら、自分の

夢への第一歩になるかもなどと都合のいいことを考えたのです。


            


 面接に行くと、ちょっと怖そうな感じの年配の家政婦さんが私

を頭の先からつま先まで舐めるように見て、『掃除は好きですか?

きれい好きですか?料理は作れますか?』と一気に3つの質問を

しました。私の心はもうすでに決まっていましたので、元気よく

、『はい』とだけ答えました。もちろん、特に掃除が好きなわけ

でも、料理が得意なわけでもありませんでした。すると、『結構

です。来週から来れますか?』と聞かれたので、また、『はい』

とだけ答えました。そして私の引っ越し先は大きな庭のある邸宅

になりました。


            


 家政婦は他にも2人いました。2人とも通いでした。そして2交

代制で朝から晩までその家の家事一切を担当しました。しかし私は

帰る家がないので、休みはあっても、結果的には365日、24時

間、その家の人々のお世話をすることになりました。しかし、こう

なったらやるしかありませんでした。私は必死で働きました。朝5

時、庭の掃き掃除から始まり、家中にはたきをかけて、掃除機をか

け、拭き掃除、水回りの掃除、朝昼晩の食事作りも、もちろん、見

様見真似でやりました。


            


 そして3週間経ったところで、ようやくお宅のマダムが旅行から

戻ってきました。パリにひと月もいらしたそうです。どんな方だろう

かと私は興味津々でした。お金持ちのマダムだからおそらくは意地悪

か、あるいは世間知らずのどちらかだろうと思っていました。


 マダムは寝室とドレッシングルームを持っていました。6畳ほどの

広いお庭に面した明るいガラス張りのドレッシングルームには専任

の花屋さんが常に、もちろん、マダムの不在中も美しい花を活けて

いました。クローゼットにはクリーニング済みのドレスがたくさん

並んでいました。もちろん宝石類もきっとたくさんあったでしょ

う。しかし、私はその部屋にだけは立ち入りが許されなかったの

です。


            


 私はマダムの不在中も、ドレッシングルームの前の寝室の掃除

をしながら、ガラス越しにいつもドレッシングルームを眺めてい

ました。美しいドレスとアクセサリーケースがたくさん並んだク

ローク、クラシカルなボトルの香水瓶がたくさん並ぶ化粧台…

憧れそのものでした。手にぞうきんを持ったまま、しばし、ガラ

ス越しにその光景を眺めているとき、あの『ティファニーで朝食

を』の映画の始まりのシーンがいつも浮かびました。早朝、まだ

人通りのないニューヨーク5番街にイエローキャブがやってきて、

ティファニー宝石店の前で止まる。そこに田舎から出てきた黒

いドレスを着た若い女性、ホリー・ゴライトリーが降り立つ。ウ

インドウ越しに宝石を眺めながら、袋の中からペストリーとコー

ヒーを取り出す…私の気分はそのホリーの気分そのものでした。


            


 
私は初めてマダムに対面したときのことを今でも忘れません。

それはドレッシングルームのガラス越しでした。私はいつも通り

ドレッシングルームをちらちら眺めながら、寝室の床の拭き掃除

していました。そのとき、ほんの数秒、ふたりが顔を見合わせた

のです。そのマダムの瞳を見た瞬間、私の30数年の歳月が瞬く

間に1秒に縮まりました。その瞳は二人で田舎を飛び出して来た

同郷のあの友人のものだったのです。その表情は、私より何百倍

もあか抜け、そして、美しく変身していました。なにより私を打

ちのめしたのは、彼女と私の立場の違いでした。私はその仲良し

の姉妹同然の同級生に雇われる身になっていました。


 それから私は毎日、30数年間を反芻し続けました。『彼女も

おそらく都会に出てきて貧乏な暮らしをしていたはず。しかし一

体どうやって裕福な結婚相手を見つけて、広いお屋敷に住む何不

自由のない生活ができる身分になったのだろう?』と。それから

はもうまともに顔を見ることもできませんでした。彼女から話を

聞き出したいと言う気持ちはもちろんありました。どうやってチ

ャンスをつかんだのか?そのターニングポイントはいつだったの

か?そんなことを心から問いただしたかったのです。


            


 私はいたたまれなくて、それから2ヵ月後に家政婦を辞めまし

た。そして田舎に帰りました。すぐに彼女の実家を見に行くと、

彼女の家のあった場所には賃貸マンションが建っていました。そ

の時の流れを肌で感じた時、私のシーズン2の人生が始まりまし

た。


 私はわずかな貯金をはたいてパリに行きました。まがりなりに

も家政婦のスキルを身に付けていたので、言葉はできなくてもや

れる家政婦として、パリのアパルトマンの邸宅で働き始めたので

す。それからしばらくして、私の働きぶりをマダムが気に入り、

彼女が経営する会社の仕事もやるようになりました。もちろん雑

用でした。しかし、それから数年間、そんな雑用こなしていくう

ち、勤勉さを認められ、マダムの会社の従業員になりました。そ

の会社はイベント会社でした。様々な業種のイベントを企画し、

設営、デコレーション、後片付けまで様々なことをやりました。

そして5年後、初めてクリスマスのある店舗の飾りつけを担当さ

せてもらったのです。最後は幅10mもあるピンク色の巨大なリ

ボンを数人がかりで150年前のビルの壁に設置しました。


            


 私はこの高校の卒業生として地元に何も貢献などしておりませ

ん。しかし、この場をお借りして、後輩のみなさんにアドバイス

ができるとしたら、辛い時、孤独感、挫折を感じた時、とにかく

体を動かして欲しいと思います。体を動かす仕事をどんどんこな

すうちに、挫折、どん底も次第にオセロのように黒から白に反転

してゆくからです。そして、苦しく、辛くなったら、『ムーン

リバー』を歌いながら、部屋の掃除をするのです。すべては、掃

除をすることから始まるというのが、私の持論です。それでは、

みなさま、ここまで私の拙いおしゃべりにお付き合い頂き、ほん

とうにありがとうございました
。」



  



上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1


 『ムーンリバー』は『ティファニーで朝食を』の主題歌ですが

3種類の曲が使われているそうです。

有名な、オードリー・ヘップバーンがギターを

弾きながら窓辺で歌うものがあります。

そして、私は映画の最初にタイトルバックに流れる

『ムーンリバー』が大好きです。

清々しい気分の歌詞のない曲は夢を掻き立てられるので、

クリスマスソングのようにも聞こえるのです。


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
「もの、こと、ほん」は下の写真から、2024年12月号です。



           


p
.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

    の英語版です。

    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”

    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:

    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に

    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに

    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。

    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 







































































シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

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    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
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