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リサコラム
連載948回
      本日のオードブル

『Live in A Dream』

第10話

「青と白と、

みどりとメロス」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つデザイナー。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。
甘いものは少々苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家は
ロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、
F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




緑の壁、

白い枠がアクセントになった

青いドア

ブルーのレースのカーテン

そして

グレーとベージュの市松柄の床で

インテリアはバッチリ。

跡は…





 



第10話 「青と白と、みどりとメロス」



 「いや、それにしてもおかしい…遅すぎる!」僕は格子窓の外

のオレンジ、紫、そして群青色のグラデーションに染まった夕焼

けの空眺めながら、キッチンカウンターをどんと叩いた。


            


 「まさか、こないつもりだろうか?」とそんな不思議なアイデア

が浮かぶ度に、頭を左右に振って「そんなことはありえない。だっ

て新築したばかりの家じゃないか!」とそのアイデアを払いのけ

た。それが、時間が経つにつれ、払いのける力が微弱になってゆ

き、同時に疑心暗鬼という深い穴に落ちて行った。そしてはっと

我に返って、コーヒーを淹れようとキッチンに行くたび、または

っとする。「ああ、そっか、まだ引っ越し荷物が来ないから何も

ないんだ」と。それをもう、朝から5回は繰り返していた。ちょ

うど右に行っても、左に行っても行き止まりの道を行ったり来た

りしているような気分だった。


            


 この新しい家は僕とみどりの新居だった。妻のみどりはキャリア

ウーマンでいつも世界中あちこち飛び回っている。そんな彼女の飛

行機は今、どこにいるのだろうか?きっと到着が遅れているのだろ

う。まさか、ハイジャック?いや、今時はそんなことはあり得な

い。それなら飛行機ごと撃ち落されたか?まさか!しかし、やっ

て来ないのはみどりだけではなく、引っ越し荷物もなのだから、

もうどうしようもない。さらに、ここは海を見下ろす丘の上に建

つ孤高の家。こんな辺鄙な場所に別荘を作ろうと思ったのはこの

景観に僕が勝手に一目惚れしてしまったからなのだが、問題は近

所にはコンビニどころか、食料品店すらないため、車で約1時間

は走らなければ食料が手に入らないということだった。だから近

所の農家の方から野菜を分けてもらうか、自分の畑で野菜を育てる

か、週に1回ぐらいしかやってこない宅配便に頼るしかない。


            


 朝から何十度もみどりに電話をかけ続けているが、まだ飛行機

の中にいるのか、全くつながる気配がない。午後一で家財道具一

式が届くはずだったのに、それが午後3時を過ぎてもまだやって

こない。やっと西の空に夕焼けが現れ始めて、「あと1時間ほどで

そちらに向かいます」とスマホに連絡が入った。しかし、椅子も

なければベッドもない。つまり立っていることしかできないの

だ。朝から何も食べていないが、水を飲むしかない。しかも手

で。キッチンの窓から外を眺めると、時々、垣根にとまったカ

ラスがかあかあと鳴く。その声は僕を馬鹿にしているようにし

か聞こえなかった。


            


 この家のインテリアは僕とみどりの好みを分け合ってできた。

青と白のインテリアが好きな僕は壁を青と白のストライプにした

いと言ったが、名前のとおり緑が好きなみどりは壁は緑じゃない

と絶対に嫌だと譲らなかった。そこで壁は細い青のストライプが

入った緑になった。そこで私はドアだけは絶対に青にしたいと

言った。しかし、みどりはやはりドアも緑がいいと一歩も譲ら

なかった。そこでドアの外側は緑に、内側は青に塗った。そして

玄関を入ってリビングに入る間仕切りにはサファイアブルーのレ

ースカーテンを下げることにした。すると、青、白、みどりのバ

ランスが絶妙になった。少なくとも僕はそう思う。しかし、そん

なこだわったインテリアであっても、座る椅子さえない。運送便

の最後の連絡から1時間経ち、そして2時間が経った。そして、み

どりからの連絡もなかった。


            


 「まさか?」わたしはちらとそんな考えが浮かんだ。まさかと

言うのは、みどりは捉え所のない人間で、たまにしか家には寄り付

かないことから導かれる推論だ。いつもどこで何をどうやっている

のかもよくわからない。しかし、今回の家に関してはみどりも乗り

気だったので休暇にはきっと戻ってくるに違いないと私は踏んだの

だった。夏と冬の年2回の休暇しかゆっくりできないが、それでも

僕たちのスイートホームだ。小さな家だが、裏庭には野菜を育てよ

うと思えば育てることもできる。ここまでやってくるのに3時間は

かかるが、土日を使えば来れなくもない。そんな夢の詰まった別荘

だったが、その引っ越しの日に荷物がやってこないために、僕はこ

こで飢え死にしてしまうかもしれない。そんなことを考えながらト

ラックとみどりを待って永遠に感じる時を無為に過ごすしかなかっ

た。


            


 空がだんだんと薄暗くなって、今、赤茶色の空に変わった。

彼女に何度、電話をかけ、メッセージを送っても「電波の届かない

場所にある」としかスマホは応答しない。本当に来るのだろうか?

運送便から最後の連絡が来てから 2時間経ったが、道に迷っている

のだろうか?こちらも電波の届かない場所にいるらしい。


            


 みどりは今、どこに?彼女は自由奔放な性格と言えば口当たりが

よいが、実はとてもいい加減な性格だ。約束をしても半分も守らな

い。どこで何をしているのかの報告も連絡もしない。このままトン

ズラする気かもしれない…もともとそういうつもりだったんじゃな

いか?僕はもう、みどりが裏切ったのだと結論づけそうになってい

た。そうなると、僕が1人がこの家のローン払い続けなければなら

ないことになる。孤立無援だな…私は絶望の淵に立たされている気

分に苛まれていた。すると、別の僕が、「いや、遅れているだけだ

。運送便はやってくるはずだし、みどりだってやってくるはずだ」

とまた思い返した。その崖っぷちと希望という安全地帯の間を10

回も20回も行ったり来たりしながら午後8時が過ぎた。


            


 真っ暗な空に満天の星が輝く。これが『走れメロス』の気分なん

だな、そう思った。もし、今から車を飛ばして、どこかに買い出し

に行こうにも店はしまっている。駄菓子屋のような食料品店さえ、

近くにない場所に私はよくも家を建ててしまったものだ!ああ、

まさに、人生の大失策だ!…地震や災害が来たらどうしたらいい?

そもそもそんな場所に食料さえ持たずにやってきた私が1番都会

ボケしているじゃないか!僕は空腹でもう動く気力も考える力も

全てを失ってしまった。しかも、凍えるほど寒くなってきた。

あたかかい飲み物もコーヒーもない。残るはこの崖から海に飛び降

るしかない。そんなことしかもう思い浮かばなかった。そしてとう

とう私は床に倒れ込むように寝てしまった。


            


 あれから1時間位経っただろうか。何かの音が僕の耳に響いた。

起き上がる力もなくなっていたが、そのとき、初めて玄関のチャイ

ムの音はこんな音なのかと知った。なんとか起き上がって玄関を開

けると、そこには運送屋さんとみどりが立っていた。みどりは運送

便の車に乗ってきたようだった。その瞬間、馬鹿な僕は全てを丸ご

と許してしまった。どんないきさつがあったのか、そんな些末なこ

とは知ろうとも思わなかった。ただ、僕が顔をくしゃくしゃにして

彼らにしゃべったことは、「ありがとう、メロス、助かった!」

それだけだった




  



上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1

今日は大晦日、いいお正月になることだけを祈って。

疑心暗鬼より、希望を!



p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
「もの、こと、ほん」は下の写真から、2024年12月号です。



           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

    の英語版です。

    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”

    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:

    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に

    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに

    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。

    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 







































































シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
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