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リサコラム
連載955回
      本日のオードブル

『名画の中へ』

第7話

静かなユトリロ


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つデザイナー。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。
甘いものは少々苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家は
ロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、
F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。






街路樹のある住宅地の通りは

侘しいようなさわやかなような

不思議な空気感の中

遠くに男性の姿が。






 



第7話  「静かなユトリロ」



 私が子供の頃、まだ物心つくかつかないかの頃から、母は

「もしかしたらこの子は何らかの理由でうまくしゃべれないの

かもしれない」と、非常に心配していたようです。


            


 今でいえば“ママ友”の間で、「大人しいですね」と言われれ

ば、「この子は、喋るのが遅いんですよ」と言っていました。

しゃべり始めるのが遅かったのは事実でしょう。しかし私は子

供の頃から、ペラペラしゃべる方ではありませんでした。さら

に、感情の起伏が激しくないため、何かの病気が隠されている

のではないかと母は心配して、私を小児科の先生の元に連れて

行ったのですが、これと言って病気は見つからず、別の日、精

神科の先生のところへ私を連れて行きました。


            


 「先生、この子はあまりしゃべらないし、感受性が乏しいのか、

何を思っているのかよくわからないのですが…」と困ったような

照れくさいような顔でその精神科のお医者さんの前に私を座らせ

ました。私は黙ったままで、じっと先生の座る横の柱を見ていま

した。すると先生はメガネの底から私の顔を見て、にっこり笑い

ました。そして、「好き嫌いはありますか?」とか、「お友達は

いますか?」「どんな遊びをしますか?」などと平凡な質問をし

た後で、「ちょっとこの絵を見てごらん」と私に奇妙な絵を見せ

たのです。


            


 その時はこれがロールシャッハテストというものだとはもちろ

ん、知りませんでした。今日では、そのテストの信憑性が疑われ

ているようでもあるのですが、その頃はまだ信じられていたよう

です。そのテストは、2つ折りにした紙の半分に絵具を様々に置

いて、パタッと二つ折りにして、開き、出来た絵柄を見せて、何

に見えるか、その見え方によってその人の深層心理を探るという

ものでした。私は子供心に、母も先生も精神的な何らかの異常を

疑っていたことをわかっていました。


            


 私は5人兄弟の末っ子でした。勉強しなさいと言われても遊ん

でばかりで勉強などしようともしない兄と姉と、言われなくても

勉強する姉と兄、彼らが日々、両親とどんな会話をして、褒めら

れたり怒られたりしているのか、兄や姉の言動を観察してきまし

た。そんな中で、5番目のどう見ても、俳優にも神童にはなれそ

うにない容姿と言動、そんな弟に誰も期待を寄せることはなく、

つまり、いてもいなくても変わらないような、そして、勉強もで

きなく当たり前のような、諦めの雰囲気を私は敏感に感じ取って

きていたのです。ですから、親や先生が私を他の子供とちょっと

変わった多少異常なところがあると思うのであれば、そのように

振舞った方が楽ではないかとすでに5歳くらいで感づいていまし

た。


            


 そこでロールシャッハテストを見せられた時、こんなことを言

ったら、「この子はやっぱり精神面におかしなところがあるのだ

ろう」と思われる最大級のことを考えたのです。私は先生の顔で

はなく、その向こうの柱をじっと見ていました。母は無言の私に

ソワソワした感じで「ほら、思った通りにぱっと言えばいいのよ」

と催促します。その絵は、怪獣か、お化けが2匹あるいは2人の

魔女のようにも、鷲のような鳥が大きく手を広げているようにも

見えました。私はなんの絵だかわからないけれど、最近よく耳に

する、「モナリザ」と答えたのです。先生も母も唖然として次の

言葉が出ない様子で、かなりびっくりしたことはすぐにわかりま

した。


            


 母は「先生、どうしたものでしょうか?」とでも言うような顔

でしたが、先生は「では、これはどうかい?」と言って、また別

のものを見せました。それは丸い地球の上に白い蛇が長々と横た

わっているような絵に私には見えました。しかしそれでは普通す

ぎると私は思いました。そこでまるで関係ないものを考えまし

た。そして「ポプラ並木。そこに先生が歩いている」と言ったの

です。すると、先生はしばらく間をおいて、「これからもちょっ

と診察に来ていただいた方がいいかもしれませんね。でも、あま

り心配されないように。人はみんな個性的でいいのですから」と

いうようなことを母に遠まわしに行って、私の診察は終りました

。その時、母はこれ以上ない位の苦々しい顔をしました。渋柿を

間違って食べた時のあの顔と同じ顔でした。それは私が渋柿を庭

からもいで来て、お盆の上に並べてある柿の上に置いていたもの

だったのです。しかし、母は知らずにその柿の皮をむいてひとり、

台所で食べていたのです。そのひと口、口に入れた時の母の顔とそ

の時の顔がそっくりだったのです。母はこの子はふざけて、大人

をバカにしているとでも思ったのでしょう。それ以来、私はその

先生のところに診察に行くことはありませんでした。


            


 しかし、その出来事はその後の私に大きな影響を与えました。

そして高校生1年生の時、学校にネイティブの英語の先生がやっ

て来ました。初めてのアメリカ人の先生の授業は月曜日で、その

先生は笑顔でみんなの顔をぐるっと見ながら、“Hi! You guys,

what did you do yesterday?”
と、昨日は何をしたか尋ねたの

です。みんなそれぞれソワソワした面持ちで、クラスメート同

士、もぐもぐ言い合っていました。そして、先生と私の目がぱ

っと合ったとき、先生は私に向かってやはり、にこやかな笑み

を浮かべて同じ質問をしたのです。


            


 What did you do yesterday?” 私は2、3秒黙った後、

” Nothing special.”ときっぱりと答えました。特別に何もしなか

ったからです。友人たちは私がちょっと変わっていることを存分

に知っていましたが、先生の表情はさっと曇りました。でも、こ

の出来事は私にとって決定打となりました。私は変わった人間と

して、人に迎合せずにいたほうが、楽で、さらに人間関係もさっ

ぱりするとわかったのです。


            


 その後の私の45年の人生は、道の真ん中に大きな石が道をふさ

いでいて通れなくなっている時に、大勢の人を呼び集めて一緒に石

をどかしている脇で、ひとりぐるっと遠まわりして行くような生き

方になりました。さらに私は感情の起伏に乏しい大人になりました

が、それは、人と余計な衝突を避けるには、簡潔に必要なことだけ

を述べること、だれかが自分をためそうとしたら、精神異常を装っ

て逃げる術を身につけてきたのです。


            


 あのとき、精神科のお医者で見せられたロールシャッハテストの

絵の答えはでたらめでした。それは先生の後ろの柱で、母からは見

えない位置に掛けてあった絵の様子をそのまま言っただけだったの

です。後で知ったのは、それが、モーリス・ユトリロという感情の

起伏が激しかったフランス人の画家の絵で『ロゼ・サンノワ通り』

という絵の複製画だったようでした。先生はその絵を見慣れ過ぎて

私のでたらめな答えに気づくこともなかったのでしょう。


            


 そして、高校生の3年間、私のあだ名になった、

”Nothing special.
”は、私自身、気に入って、口癖のように使って

きました。ただ、困ったことは、7歳になる息子が私のものまね

をして、”Nothing special.”を連発するようになったことです。

やはり、精神科の先生に相談すべきかと少々、悩んでいます。



  



上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。


p.s.1

モーリス・ユトリロ(1883-1955)

母はシュザンヌ・ヴァラドンで画家。

エリック・サティの愛人でもありました。

ユトリロ8歳の時に精神病でとして病院に連れて

行かれたようです。

生涯アルコール依存症に悩まされながらも、

そんな感じがしない、静謐な風景画ばかりを

描いているところが面白いです。




p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
「もの、こと、ほん」は下の写真から、2025年2月号です。



           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

    の英語版です。

    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”

    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:

    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に

    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに

    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。

    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 







































































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