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リサコラム
連載956回
      本日のオードブル

『名画の中へ』

第8話

「お仕置き部屋の絵」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つデザイナー。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。
甘いものは少々苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家は
ロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、
F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。







広い額、

シルバーグレーの髪の毛

それでも、

鼻の頭と頬とくちびるは桃色

知的な横顔の男性は

どなた?







 



第8話  「お仕置き部屋の絵」



 車から降りると、氷のような手で両方のほほを覆われたように、

あまりの冷気にぞくっとした。ぶるぶると身震いをしてコートの

襟をしっかり立て、帽子を目深にかぶってマスクまでしっかりと

つけ、コインパーキングから路地のほうにしばらく歩き、4階建

ての古いビルの前にやって来た。オートロックではない誰もが入

れるビルの階段室は冷え切った空気にさらされ、コンクリートの

階段はまるで冷凍庫の中で冷やし固められているかのように、

カンカンと硬い音を立てた。そして、スチールのドアを拳で軽く

叩くと、コンコンではなく、やはり、カンカンと鳴った。ここに

はインターホンさえない。1、2分待って、ようやく人の気配が

した。それでも4階まで歩くと少しばかり体も温まっていた。


            


 「どうぞ、どうぞ、お入り下さい。寒かったでしょう。今夜は

零下ですから」画家は私にスリッパをすすめた。私はほっと息を

ついて、スリッパを履き、そして室内へと入っていた。ここは画

家のアトリエで、2 DKをワンルームにしたようなガランとしたス

ペースの中に、イーゼルや絵の具箱、描きかけの絵が散乱してい

る。


            


 「できたんですね」私は凍える口元で言葉少なに尋ねた。

「ここに」画家は立てかけたイーゼルを示した。そこには鼻が1

センチほど低くなった祖父がいた。


           


 「いかがでしょうか?」「ああ、いいですね。やっぱり日本人

の鼻なので。それに、目も少し黒めにしていただいたので、なん

となく祖父の面影に近づいているように思います…」「それで、

1968年とは何かの年なんでしょうか?」「あぁ、亡くなった

年ではありません。まだこんなふうに元気だったのだろうと思い

ます。祖父は確か、1969年か70年に亡くなっているので、

ほぼ晩年ですね。私はその後に生まれているので、実際は会った

事はないのですが、こんなような感じだったと思います」


            


 「はあ、それでちょっと気になって、お尋ねしても差し支えな

ければ…」「どうぞ」私はやっぱり来たと思った。「肖像画を依

頼される方は多いのですが、しかし、写真ではなく絵画のコピー

を原画にというのはどうしてですか?それにこの絵画の人物は日

本人ではありませんよね」それはもっともな質問だ。着ているも

のからしても、なんとなく今の人間ではないというのは、誰にも

目にもわかる。


            


 「ある画家が描いた著名人の絵ですね。まだ写真などなかった

時代です。おそらく300年ほど前の人間です」「300年前の

人物画を5、60年前の人の肖像画の原画にされたということで

すね」「ええ」「それはどうしてですか?写真が残っていないん

ですか?1968年でしたら、当然、カラー写真もあったんでは

ないでしょうか?」「あったと思いますよ。簡潔にいいますと、

実物の顔と違っていてもいいんです。これは私の家では伝統とい

いますか、家訓と言いますか、そういうもので、その人が尊敬し

ていた人物が肖像画になるんです」「はあ~、なるほど」「それ

で私の家系はみんな教師でして、それも社会科の教師なんです。

私の父は厳しい人で、私は小さい時によく悪さをしてお仕置き部

屋に入れられたのですが、狭い押し入れみたいなところで、『1

時間、暗唱!』と言われて、外から鍵をかけるんです。恐ろしい

雰囲気で、そこの壁に1枚の肖像画がかけてありました。そして

その下に文言が書いてありましてね、その頃は、お経のようで

何のことかわからなかったんですが、忘れもしません。それはこ

う書いてありました。


            


 「君主制における教育が心を高尚にすることにのみに努めるの

に対し、専制国家における教育はただ心を卑しめることだけを求

める。そこでは教育は奴隷にふさわしいものでなければならな

い。命令するときですら、そのような教育を受けていることは、

いわば幸いなのだ。なぜなら、専制国家においては暴君であると

同時に奴隷でもないような者は1人もいないからである」*

私が言い終わると、画家は「う~、難しいですね~」と腕組みを

して、「1回聞いた位では…これは簡単に言うとどうゆうこと

なんでしょう」と言った。


            


 「これは君主制と専制国家における教育の違いということを言

っているのです。祖父は戦前、戦中、戦後を生きた人で、父は

その教えを受けていますので、暴君の国家では、暴君も含め、

みな奴隷と同じだと言っているのです。だから、君主制とは教育

自体がまるで違うことです。そこでは暴君を崇め、言いなりにな

る教育は受けられても批判精神や独立心は教えないということで

す。つまり、教育と国家は同じなのだと言っていました。これは

今も多くの国家が抱えている問題ですね。父は祖父の教えを叩き

込まれ、そして私は祖父の年老いた肖像画に向かって泣きべそを

かきながらその言葉を何度も暗唱させられました。きっと私の体

に染み込ませたかったのだと思います。父はそうして私に教師に

なるように仕向けましたから、まぁそれも言ってみれば暴君だっ

たかもしれませんけどね。お仕置き部屋から出て、大人になって

やっとその意味がわかったようなものですけどね。そんなこんな

で私にとって祖父という存在は高尚で畏れ多い人物だったんです

。もちろん会ったことありません。しかし、私がまぁ何とかまと

もに社会に出て教師という職業に就くことができたのは、会った

こともない祖父の肖像画とその祖父の残した文言のおかげなんで

す。ただ、その祖父の肖像画は既に手元になく、でも、私はどう

しても自分の息子に見せたいんですよ」


            


 「息子さんにですか?」「そうです。うちの息子も私の子供の

時と同じように、全く言うことを聞かないんですよね。中2です

が、学校もちゃんと行かないし、門限は守らない、勉強はしな

い、ゲームにネットにSNS、毎日そんなもんばっかりで、これで

は祖父の教えが途絶えるし、教師には程遠いと思いましてね。

それで私の子供の頃のお仕置き部屋での暗唱を思いついたんで

す。まぁ、時代は変わりましたから、虐待にはならないように

、工夫しますけどね。その問題の文言ですがね、学生になって

やっとわかったんです。それは祖父オリジナルではなく、

モンテスキューの『法の精神』の一節だったんです。それで

モンテスキューの肖像画をネットで見つけましてね、これはいいと

思ったんです。


            


 「モンテスキュー、教科書で習ったような…」「ですよね。私も

社会科の先生にならなければ全く同じですよ。私が子供の頃に見て

いた祖父の肖像画もモンテスキューの肖像画がモデルだったんでは

ないかと思っています。つまり、実際の人物に似ても似つかなくて

もいいんです。それで、トイレの壁にこの祖父、宗一郎の肖像画と

あの文言を貼っておこうと思っています。ただちょっと鼻がね、

ちょっとだけ、高かった。そこを修正していただいたってことなん

ですよ」「なるほどね~色々ご苦労が…」画家は首を傾げて眉間に

しわを寄せた。


           


 「もう、息子にはずっと振り回されて、散々いろんな手を使いま

したが、最後は祖父の力です。まあ、モンテスキューの力ですが

ね。これで変化しなければ、後は野となれ山となれ、つまり、追い

出します」私はそう力強く言うと、“SOUICHIRO”と書かれ

た肖像画を大事に風呂敷に包んで小脇に抱えた。そして「このたび

は誠にありがとうございました。この素晴らしい作品が、私の息子

を更生させてくれることでしょう」と礼を述べた。「そうですか、

期待しております」彼はそう言うと、先回りして玄関のドアを開け

「幸運を祈ります」と、頭を下げた。私はさらに深々と下げたが

ふと言い忘れたことを思い出した。


          


 「ああ、それで、次は私の肖像画をお願いします。でも、

モンテスキューじゃなく、ブラピがいいんですけど…」




  



上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。

*逸見龍生訳による。

p.s.1

シャルル=ルイ・ド・モンテスキュー(1689-1755)

ルイ14世治下に活躍した啓蒙思想家モンテスキューの

ことをラジオ講座『まいにちフランス語』で知り

今、勉強中です。

1748年に出版された『法の精神』は

有名な三権分立という法律に関するものは少なく、

政治学から人類学まで多岐に渡っているそうです。

文体は力強く、歯切れよく、美しく、王政に対する皮肉も

込められており、匿名で出版されたそうです。

感動的な文章です。


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
「もの、こと、ほん」は下の写真から、2025年2月号です。



           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

    の英語版です。

    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”

    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:

    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に

    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに

    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。

    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 







































































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-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
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