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リサコラム
連載960回
      本日のオードブル

『名画の中へ』

第12話

「見返り婦美人」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つデザイナー。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。
甘いものは少々苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家は
ロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、
F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。





江戸の女性は

こんなにあでやかな着物を着て

まちを歩いていたのでしょうか?

桜の季節はまち全体が匂うように

美しかったことでしょう。




 



第12話  「見返り婦美人」




 親春休み前にした社会科の授業。生徒たちは弾む気分で気もそぞろ

のはずなのに、教室には、ゴシゴシ、ガサガサという拭き掃除の音だ

けが響いていました。生徒はみな雑巾を手に、自分たちの机と椅子を

磨かされていたのです。先生は先生で、教壇を磨いていました。


            


 それは高校1年生の歴史の授業中の出来事でした。今、なぜ、机と

椅子を掃除しなくちゃいけないのか?そんな疑問は「黙って、真剣

にやりなさい」という先生の声で一蹴されていたのです。もう、

40年も前の出来事です。さて、今ならどうでしょう。モンスター

ペアレンツが、なぜうちの子に机と椅子を磨かせたんですか?など

とクレームをつけるような事件に発展するのかもしれません。しか

し、その当時は親の発言より先生の意思が全てだったのです。それ

はそれで、当時はよかったのだろうと思います。


            


 先生は、掃除もほどほどに終えて、椅子に腰掛けていたひとりの

男子生徒に向かって、「2度拭きするんですよ」と言いました。

「2度拭きって何ですか?」彼はずけずけと言い返しました。

「一度、雑巾をきれいに洗ってから、もう一度、拭き上げなさい」

先生の厳しい声に彼は渋々立ち上がると、バケツの中で雑巾を洗い

また拭き始めました。その男子生徒がまさしくその時間の主人公

でした。その生徒の発言によって、他の生徒たちも連帯責任でお仕

置きをさせられているという感じだったのです。


            


 事の発端は、浮世絵作家、喜多川歌麿の絵でした。先生は黒板

に大きなポスターを貼りました。それが、喜多川歌麿の美人画の

絵だったのです。それから、歌麿についての説明を始めました。


            


 「喜多川歌麿という人は江戸中後期、18世紀末から19世紀の

頭に活躍した人気の浮世絵師でした。生まれも、生年月日もわかっ

ていません。しかし、江戸の美人画を描いた浮世絵が非常に高い評

価を受け、庶民の間に瞬く間に広まったのです」そう説明を加えて

から、黒板に貼ったポスターを指し示しました。


            


 「今では高い値段で取引されていますが、当時は庶民の絵でし

た。歌麿の浮世絵の中でも非常に高い評価がされている有名な絵

です」先生はそう言ってから生徒たちを見渡すと、「この絵のタ

イトルを知っている人はいますか?」と尋ねました。すぐに数人

が手を挙げました。しかし、先生は、手を挙げなかったある男子

生徒を指したのです。


            


 「は~い。見返りブスで~す!」彼は堂々とそう言いました。

教室の約7割が笑い出しました。しかし、笑わなかった生徒もも

ちろんいました。私は「ブス」と言う言葉にドキッとして笑うこ

とができませんでした。先生は十秒ほど、黙っていました。そし

て、その男子生徒に「そんな言葉を女子に言ったことはありませ

んか?」と尋ねると、「先生、そのひと、ブスですよ!どう見て

も、はははは」とすぐに反論しました。「美醜の判断はその人の

価値観と感覚によるものです。さらに、その時代、時代で判断基

準も変わります。ただ、あなたはそんなふうにいつも誰かを茶化

しているのではないかと心配して、聞いているんです」


            


 彼は、「先生、やっぱ、ブスはブスだと思います。ブスを美人

とは言えないですよ」と鼻で笑いました。「わかりました。ごも

っともです」と先生はそう言ってから、「みなさん、自分の椅子

に雑巾がかかってますよね。この列の人、急いでバケツに水を汲

んできてください。これから、それぞれの机と椅子を磨きましょ

う」と言ったのです。当然、生徒たちは顔見合わせて「えっ?」

「なんで?」と不満を表した顔を見合わせ、そして笑いました。

先生は、「さあ、早く!」とバケツ担当の数人を急き立てまし

た。


            


 バケツが数個、教壇の前に並ぶと先生は自分の机から拭き始め

たのです。先生がやり始めたので、生徒もじっとしているわけに

はいきません。そういう時代だったのです。生徒はわけもわから

ないまま、雑巾を濡らして自分の机を拭き始めました。「真剣に

こすれば汚れは取れます。自分がつけた汚れは自分で取るのが当

たり前です」教室のざわめきは続きました。社会科の授業がいき

なり掃除の時間になったのですから。「なんで?」というそんな

ささやき声も、「静かにしなさい。集中するんです」という厳

しい声でかき消され、生徒たちは一応に黙って磨き始めました。


            


 掃除を始めると、こんなに汚れていたのかとびっくりする位

雑巾は真っ黒になり、雑巾を洗うとバケツの水はみるみる真っ

黒になりました。私はバケツの水を取り換えに行きました。

「こんなに、汚れているんだ!」と言う声もあちこちから上

がりました。


            


 先生はさっきの生徒のほうに向かって「きれいになりましたか

?」と念押しの視線を送りました。その男子はいやいやながら、

「は~い」と答えました。ただならぬ雰囲気が漂っていました。

私は次に始まるのだろうとちょっとドキドキしていましたが、

それから15分ほど経ったとき、先生は「もう、いいでしょう。

どうですか?きれいになりましたか?」とみんなの顔をニコニコ

しながら見渡したのです。


            


 「きれいになりました!」とか、「先生、えらい、汚れてまし

た!」「先生、なんか気持ちよくなりました!」となどという肯

定的な言葉も聞こえてきて、重苦しかった雰囲気は一気に清々し

い空気に変わったのです。それから、先生は「少し寒いでしょう

けど、窓開けて空気を入れ替えましょう」と言って、窓の近くの

生徒に窓を開けさせました。冷たい春の風が教室に入り込み、私

はぶるっと身ぶるいしました。しかし、先生は何ごともなかった

ような顔でまた教壇に立つと、「座ってください」と言ってから

、「この絵のタイトルは『見返り美人』といいます」と言って教

壇から降りました。そして、教室内をゆっくり静かに歩き始めま

した。


            


 「私はあなた達と同じ年齢の頃に仲よしの親友がいました。性格

は陽気で、屈託ない笑顔がかわいいとってもいい子でした。そして

少しだけ太めの子でした」そして先生はそこで言葉を詰まらせまし

た。何かこみ上げてくるものがあったのでしょうか。その時はまだ

わかりませんでした。「さっきの発言をこの絵を描いた喜多川歌麿

に投げかけるのは良いでしょう。この世にいない人ですから。しか

し、どんなことがあっても、茶化したような悪口を生きた人間にか

けるものではありません。それは、どんな場面においても、です。

人の悪口を言うことは泥棒よりも悪いことなのです。泥棒に家を荒

らされて金品を取られたとしても、年月と共に、その怒りは薄れ、

忘れられることもできるでしょう。それによって自殺に至る人はな

いでしょう。しかし、「もし、『見返りブス』とある女性に言った

らどうなると思いますか?」先生は教室を見渡した後で、その男子

生徒を見つめました。私のその幼なじみの友人はまさしく、男子生

徒から『見返りブス』と茶化されたのです。彼女は自分が少し太め

であることを気にしていましたが、そう言われた次の日から食べた

給食を全部吐くようになりました。家でも食べ物を受け付けなくな

ったのです。そして彼女はそれから数週間後、亡くなりました。遺

書もなかったため、自殺とは扱われず、『見返りブス』と言った本

人には罪はかけられませんでした。しかし、たったその一言で、彼

女は自分の命を断つまでにショックを受け、傷ついてしまったので

す。


            


 私はこの絵を見るといつも中学生3年で亡くなったあの親友のこ

とを思い出します。はるか遠い昔のことなのに未だにありありと思

い出すのです。悪口、いじめとはそれほどいけないことなのです。

言った本人は何気なくても、言われた本人は死ぬほど辛い痛みを受

けることがあることを理解してください。だからこれから先、人の

悪口を言いたくなったら、万一、言ってしまったら、掃除をするこ

とです。掃除をしている間どうでしたか?無心になれますよね。掃

除をすることによってわかることがいろいろあります。掃除をする

ことで自分自身に向き合えます。人の悪口を言い、いじめをしてい

る自分と正面から向き合ってください。自分がいかに悪い人間か、

掃除が教えてくれます」そこで、チャイムが鳴りました。


            


 先生は日ごろからいじめをしていたあの男子生徒をなんとか、

懲らしめようと策を練って、実行に移したのだろうと思います。

私は40年も経った今でも、あの先生の震えていた手を鮮明に思

い出します。先生も死に物狂いだったのだろうと思うのです。


            


 喜多川歌麿の絵の女性の鼻がもっと高く、当時の西洋人のよう

に描かれていたら、見返りブスなどという言葉はもしかしたら、

生まれなかったのではないか、それによって傷つく女性もいなか

ったのではないかと私はそのようにも、思うのです。





  



上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。



p.s.1

喜多川歌麿(1753-1806)

 フランスではナポレオン・ボナパルトの治世の時代

江戸は太平の世であったようでもあり、しかし、遊女は

苦行を強いられた時代。想像するに、きっと今よりは

厳しい時代だったろうと思います。

 模写ですが、『見返り美人』の背景を桜の季節に

してみました。





p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
「もの、こと、ほん」は下の写真から、2025年3月号です。



           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

    の英語版です。

    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”

    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:

    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に

    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに

    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。

    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 







































































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