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リサコラム
連載977回
      本日のオードブル

『饒舌の時』

第2話

「エッフェル塔」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つデザイナー。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。
甘いものは少々苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家は
ロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、
F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




窓の外は、トリコロールに

ライトアップされ、

光り輝くエッフェル塔とパリの街

光と陰の舞台装置のようです。

ギュスターヴ。エッフェルさんに

心より感謝。

そして、宣伝上手なフランスにも。


 



第2話 「エッフェル塔」




 「りりこさん、優勝者おめでとうございます!見事な追い込み

でしたね。7代目のクイズ王になられた今のお気持ちを、一言、

どうぞ!」「はい、ありがとうございます。あの、興奮して…」


            


 インタビュアーはまた、りりこにマイクを向けると、「どうぞ、

ごっくり、落ち着いて。もう、副賞のパリの街が見えてきました

ね」と背景のエッフェル塔の映像を指さした。


            


 りりこは、控えめにマイクの方を向いた。「あの、その、なんと

申しますか…」りりこは、次第にうるんでゆく瞳を上げて、再び、

観衆の喝采を浴びると、こらえきれずに涙を指で拭った。


「今のお気持ちを、どうぞ!」「はい。うれしくて、とても一言で

は言い表せません。私が18歳の時、フランスに交換留学のチャンス

が訪れた時からの夢で…30数年前です。その時は、わずか6点の僅

差で、友人であるライバルに敗れ、のどから手が出るほど行きたかっ

たその道を断たれたのです。もう、確実に私にフランス留学の切符は

回ってくるとばかり思っていましたから、予想外の展開に、愕然とし

ました。しかし、それから、私は運に見放されたのです。7つ受けた

大学入試にすべて失敗して…」


            


 インタビュアーはちらっと奥のスタッフと目配せを交わした。

「りりこさん、ご苦労なさったんですね。それでは…」「いいえ、

苦労はそれからでした」りりこは続けた。「浪人生活が始まり、

翌年、第8希望の大学に入学しました。そして、2年生の時、

第一希望だった大学に編入しようと必死に受験勉強に励んだん

ですが、やはり帰国子女には勝てませんでした。仕方なく、第8

希望の大学で4年間を過ごし、卒業したものの、私の時代はまさ

しく就職氷河期でした。英語はもちろんのこと、第二外国語の

フランス語も中途半端。誇れるスキルもなく、縁故で商事会社に

就職したのですが、丸一日、掃除、お茶汲み、雑用に追われ、

自分の仕事に取り掛かれるのは終業後というような日々が2年ほど

続いて、それで、もう辞めたいと思った矢先に、会社は自主廃業

しました。私はスキルなしのまま、就職浪人に突入し、その間は

コンビニでのアルバイトで食いつないでいました…」


            


 「りりこさん、ほんとに素晴らしい!数々のご苦労の末、この

場所に立たれたんですね。それでは、」「いいえ、その程度の苦

労なんてみんな、やってると思います。私はずっと、高校時代の

留学を逃した屈辱を晴らしたくて、他にフランスに留学する方法

はないか、留学でなくても、フランスに出張で行けるような仕事

はないかと必死で探しましたが、皆無でした。そして1年後、や

っとひとつ、フランス系の企業を見つけ内定をもらったのです。

しかし、条件がありました。1年以内にフランス語検定準1

以上が取得するということ、でした。第二外国語のフランス語は

動詞の活用なんて、avoirêtreの現在形くらいしか覚えていな

くて、とてもじゃないけど、お話しにならないレベルでした。

しかし、私にはそれは、目の前にぶら下がった蜘蛛の糸のように、

いえ、天使のはしごのように思えました。そこからが私の本当の

苦労の始まりでした。何しろ経済状況は困窮を極めていましたら

専門学校などでフランス語を学ぶにもその授業料が払えません。


            


 そこで早朝深夜のビルの清掃の仕事にも従事しました。それでや

っと、授業料を捻出してスパルタ教育で有名なフランス語の専門

学校でスターラインについたのです。期限は1年しかありません。

そのとき、私は担当教員に言われました。『まぁ、半年後、3

程度なら何とか取れるかもです』と。私愕然として、『3級じゃ

ダメなんです。どうしたって準1級でないと!』と先生にすがり

ました。すがられた先生の困惑した顔は今でも忘れられません。

それから私は本当に必死に動詞の活用を覚え、手当たり次第にテ

キストを買い込んでもうフランス語ずくめの生活を送りながら勉

強しました。早朝深夜の重労働にも耐えながら。『まずは4級か

ら』との先生の勧めにも耳をかさず、準1級の試験に挑戦しまし

た。まぁ、当然のことながら…」


           


 アナウンサーは慌てた表情になって、「りりこさん、よくわか

りました。素晴らしいご経験をバネに、きっと今後、フランス関連

のお仕事でご活躍なさるだろうということを、その、お祈りして、

ですね、」「すみません、これからが肝心なところなのです。ご迷

惑でなければ、最後までさせてください」「いいぇ、その、迷惑だ

なんて…」インタビュアーはそう言ってから、同時に緞帳の向こう

の方でヘッドホンを首にかけているディレクターのような人間に許

可を求めると、「わかりました。すばらしいお話しですが、ちょっ

と時間が押しておりますものですから、もうちょっと手短にお願い

できますか?」と言って、さっとマイクを向けると、りりこはイン

タビュアーのマイクをしっかりと握りしめた。


            


 「お察しのとおり、試験の結果は散々でした。当然ですが、二次

試験には進めませんでした。しかし、私は半年後、また挑戦したの

です。でも、二次試験の前に不合格になり、そして3度目の正直で、

やっと二次試験にこぎつけました。私は忘れもしません。その時の

口頭でのスピーチを。


            


 私は山をかけていました。ちょうど大阪万博を翌年に控えていま

したので、私はどんな質問が来ようとしゃべる事は1つと決めていま

した。そうです。私がいかにフランスを愛し、パリの象徴、エッフェ

ル塔に愛着を抱いているかです。ですから、どんな質問が来よう

と、私はエッフェル塔に無理やりつなげようと決めていました。

どんな質問が来ようとです。そして見事に私の感は的中しまし

た。『大阪万博はあなたにとってどんな意味がありますか?あなた

は大阪万博に行きますか?』と言う質問が来たのです」りりこは

見るからに興奮していた。


            


 「私はあらかじめ用意した文章を頭に叩き込んで来て、つまり

丸暗記してきていましたから、堂々とそれをフランス語で喋りま

した。それはつまり、エッフェル塔と、エッフェル塔がなぜ今な

お、燦然と輝くパリの象徴であるかをパリ万博に絡めて熱弁を奮

ったのです。まあ、丸暗記を朗読したのです」


            


 「それでは、りりこさん、ほんとによぉくわかりました」横合

いからの妨害にも拘わらず、りりこはマイクを奪い取るようにし

て続けた。


            


 「私は面接官の前で話し終えたとき、これはいける、合格だと

思いました。しかし、その面接官はこう言ったのです。「あなた

のおっしゃる事は正しいです。しかしそれはすべてウィキペディ

アに書かれていることそのものです。あなたの意見、あなたの思

想は全く反映されていませんでした」と。私はその場で首の骨が

折れるほどうなだれてしまいました。そして、案の定、その結果

は不合格でした。もう私には最後の手段しか残っていなかったん

です。私が子供の頃から得意としたのは年号などの丸暗記でした。

小さい頃からクイズ番組はすべて見て、商店街で行われるクイズ

王には必ず挑戦してきた、つわものなのです。ああ、苦節30数

年がやっと報われました。手段はどうでも、私、行けるんですよ

ね。パリに…」公会堂には拍手や笑い声がちらほら起こった。


            


 「もちろんです。それで、りりこさん、もうよろしいでしょ

うか?」今度はインタビュアーがりりこからマイクを奪い取る

と、やけっぱちな感じで、「みなさま、りりこさんに、クイズ王

に、惜しみない拍手を!」と叫んだ。公会堂はまばらな拍手に包

まれた。りりこはエッフェル塔の映像を背景に大きく両手を上げ、

月桂冠を受けた。


            


 …まさか、これはいつも見る、あの夢ではあるまい…りりこは

大きな伸びをして、窓の外の電波塔を眺めた。それは塔全体がラ

イトアップされ、本場のあれには似てはいるけど、やはりちょっ

とだけ違っていた




   



上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。



p.s.1


 私は受けていませんが、2次試験の内容はそのようです。

 avoir=have  être=be
動詞に近い

 助動詞にもなる基本動詞です。




p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
「もの、こと、ほん」は下の写真から、2025年7月号です。



           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

    の英語版です。

    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”

    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:

    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に

    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに

    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。

    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 







































































シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

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