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リサコラム
連載978回
      本日のオードブル

『饒舌の時』

第3話

「エッフェル塔」


木村里紗子のプロフィール

マダム・ワトソンで400名以上の顧客を持つデザイナー。
大小あわせて、延べ1,000件以上のインテリア販売実績を持つ。
著書「シンプル&ラグジュアリーに暮らす」(ダイヤモンド社
紙の本&電子書籍)(2006年6月)
「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」
(電子書籍2014年8月)
道楽は、ベッドメイキング、掃除、アイロンがけなどの家事。
いろいろなインテリアを考えだすこと。
新リゾートホテルにいち早く泊まる夢を見ること。
外国語を学ぶこと。そして下手な翻訳も。

20年来のベジタリアン。ただし、チーズとシャンパンは好き。
甘いものは少々苦手。
アマン系リゾートが好き。ただしお酒はぜんぜん強くない。
好きな作家は
ロビン・シャーマ、夏目漱石、遠藤周作、中谷彰宏、
F・サガン、
マルセル・プルースト、クリス・岡崎、千田琢哉、他たくさん。




リゾートビーチの夕焼けは

センチメンタルな

気分を搔き立てます。

足跡はすぐに波にかき消されて、

それがいいのでしょう。




 



第3話 「あの日に戻って」



 「コンディショナーも、リンスも、トリートメントもぜんぶおんな

じ。リンスより、コンディショナーとかトリートメントの方が効果が

高いみたいだけど、ぜ~んぶ、油だから、役目は一緒。でも、毛先に

しかつけちゃだめよ。根元には絶対つけないで!」ベテラン美容師は

ハサミを持つ手を一瞬だけ止めて、鏡の中の女性に言った。


            


 「えっ、そうなんですか?ずっと、髪の毛全部につけてたけど、

ダメなんです?」「だめ、だめ、だめ。根元が詰まるだけだから。

根元にはつけない!そして、ぜ~んぶ洗い流す」「全部洗い流すん

ですか??私は、いつもちょっとぬるぬるする位で残してましたけ

ど、その方が効果があるって…」「だめだめだめ、毛穴が詰まっち

ゃうのよ。髪の毛はね、毛根から油を出してるから、それが1番い

いの。お顔も一緒よ。肌の毛穴から天然の油が出てるのに、いろん

なものをいっぱい塗り込んだら、天然の油が出られないでしょ。

だからちゃんと洗い流さないとダメ。髪の毛も肌も一緒。自分の体

から出る自然な油が美容液なんだから」ベテラン美容師は、手を休

めることなく、パス、パス、パスと音を立てながら、床に小さな黒

山を作り出している。


            


 「つまり、自分自身をよぉおく見つめ直さないと、ダメってこ

と。問題の原因は自分にあるんだと気づかないとだめ!」話はい

きなり、髪の毛を離れて人生論になったのかな?と女性はちらっ

と思った。


            


 「私はですね、髪の毛も肌も人生も同じだと思うの。あれがい

い、これがいいって、いろんなものを上から塗り重ねたり、摂取

したりして、バリアを築いているつもりで、結局、人間に本来備

わっている力をそいでいると思う。私も、髪の毛がまとまらない

のもシャンプーとかトリートメント、もともとの髪質のせいだっ

て思っていたんですけど、違ってました。長年の手入れの仕方が

悪かったからそうなったんですよ。そんな風に、自分の体調が悪い

のも、憂鬱な気分になるのも、ものごとがうまくゆかなくなるの

も、全部、他者のせいだって思ってたんです。つまり、ダンナさん

のせいってこと。ほぼ全部、ダンナさんが悪いからうまくゆかなく

て、あれがこうなって、それがああなって、そして私の具合が悪く

なって、仕事もうまくゆかなくなったって、収入は減って、突き詰

めれば全部、自分はよくて、ダンナさんが悪いってことになってい

たのよ。昔は、私もね、主人がいたんですよ」ああ、つまり、離婚

したってことかな?“と女性は言葉には出さす、うなずいた。


            


 「その頃、何でもダンナさんのせいにしてたのよ、でもいなくな

ってから、わかりました。違ってたって」女性は黙ったまま聞いて

いた。「ほら、それ、それ、その週刊誌に書いてあるけどね。夫に

殺意を覚える人ってものすごく多いんだってね。離婚を自分から切

り出せない人は、家財道具を秘かに持ち出して、夜逃げするのを

手伝う業者がいて、その後、離婚調停までしてくれるそうよ。最終

的には離婚できずにいる人と、離婚した人といろいろだけど、

結局、何回離婚して結婚してもおんなじかなぁって…私、3回結婚

したんだけど、そう、思っています。つまり、絶対、相手のせいに

するんですよ。でも自分自身は自分が作ったものでしょ。自分の体

も、知識も、考え方も」女性は心の中で、”その強圧的な喋り方もね

!“と思った。ベテラン美容師はそんな女性の思いを察するふうもな

く、時々、強弱をつけて、流れる水のように無理やり自分の話しに

引き込んだ。


            


 「はあ、なるほどね、そう、なんですね、ですか…」女性は半信

半疑な感情を表さないように、なるべく自然を装ったつもりだった

が、逆にぎこちなく響いた。「そうですよ!」美容師は全く疑問の

余地もないかのようにきっぱりと言った。


            


 「結局、髪の毛はね、人生と一緒!」女性はその意見に即、反論

も同意もできなかったが、髪の毛と人生の長い付き合いというキャ

ッチコピーを昔、男性かつらのコマーシャルで聞いたような気がし

た。髪の毛も人生も一生つき合うものだから、まあ、たとえ話には

向いているなと、女性はそのように結論づけて彼女の顔を鏡越しに

チラリと見た。その黒縁眼鏡の奥の細い目は優しく女性を見返して

いた。彼女はにこっと笑ってから、すぐに目を伏せた。


            


 「人生は一度きりしかないんだから、2回とはないんだから、

思いっきり生きないと!あなたの人生をだから!」そのハリのある

美声は、スタッフ、客を含め、10人ほどの美容室の中で全て筒抜

けに、いや、響き渡っている。つまり彼女はここで講演会をやって

いるのだ。女性にはそのようにしか思えなかった。しかし、これは

私に言っているものなのか?それとも他の誰かに聞かせたいのか?

他のスタッフとか?あるいは自分自身に向けているのだろうか?


            


 「髪の毛は自分から直す力を持っているんだから、地肌は鍛えな

くちゃだめ、甘やかしちゃだめ。自分自身も甘やかしちゃだめ。

髪の毛をリンスのせいにしちゃだめ。コンディショナーのせいにし

ちゃだめ。旦那さんのせいにしちゃだめ」彼女の声はいっそう高ら

かに美容室中に響き渡った。カットが終わり、後始末が終わると、

美容師は手早く髪の毛を下に落とすと、「未来には行けても、あの

日にはどうして戻れないそうだから。アインシュタインがそう言っ

てるから、ほんとでしょ。はい出来上がり、お疲れ様でしたぁ~」

と鏡の中の女性ににこやかに声をかけてから、椅子をくるりと回し

た。そして、素早く髪の毛をホウキで掃き出すと、新たなお客さん

に向かって、「どうぞ~!」と高らかに言った。


            


 
きっと、また同じ演説が毎回、少しだけ演出を変えて始まるのだ

ろうか?女性はこれで、3、4回は同じような演説を聞いているの

だからと思ったが、お会計をすると、「とても勉強になりました。

また、来ます!」とベテラン美容師に声をかけて店を出た






   



上のイラストから、「リサコラムの部屋」に入れます。



p.s.1


 「あの日に戻って断りたい」という川柳を聞いたことがあります。

美容師さんは半分実話、でもきっと世界中こんな方いらっしゃるような

気がします。


p.s. 2  インスタグラム、私の日常です。

  
「もの、こと、ほん」は下の写真から、2025年7月号です。



           


p.s.3
    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

    の英語版です。

    写真からアマゾンのサイトでご購入いただけます。


           


    タイトルは、"Bedroom, My Resort”

    Bedroom Designer’s Enchanting Resort Stories:

    Rezoko’s Guide for Fascinating Bedrooms


    趣味の英訳をしてたものを英語教師のTodd Sappington先生に

    チェックしていただき、Viv Studioの田村敦子さんに

    E-bookにしていただいたものです。
 
p.s.3
    下は日本語版です。

    E-Book「Bedroom, My Resort  リゾコのベッドルームガイド」

   どこでもドアをクリックして中身をちょっとご見学くださいますように。


                 







































































シンプル&ラグジュアリーに暮らす』
-ベッドルームから発想するスタイリッシュな部屋作り-
 
(木村里紗子著/ダイヤモンド社 )                      Amazon、書店で販売しています。 なお、電子書籍もございます。

マダムワトソンでは 
                                    
    木村里紗子の本に、自身が愛用する多重キルトのガーゼふきんを付けて
  1,944円にてお届けいたします。
 
 ご希望の方には、ラッピング、イラストをお入れいたします。     
                           
    
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